先日、山梨県立美術館を訪れた。メインの目的はミレーの絵だったが、ゆっくりと他の絵も見て回る中で、見覚えのある暗い海の絵の前に来た。ああ、これはクールべだ…と思った。ギュスターヴ・クールべの「嵐の海」だった。すぐに、自分ともう一人の人の声がよみがえった。
「ザッパァーンって感じだよね」
なぜ美術オンチの私がクールべの絵を知っていたかといえば、過去に別の美術館でクールべの描いた海の絵を観たことがあったからだ。それは「波」だったと思うけれど、似たトーンの海だった。
「ザッパァーン」という、今にして思えば稚拙な例えで、私たちは絵の印象を共有し、符牒にした。その言葉と、クールベの名前と、一緒に観ていた人の横顔や佇まいが一直線に繋がって、今も私の中にある。
私もどかこでそんな風に思い出してもらえることがあるんだろうか……
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沢山の絵の中で、なんとなくいつも、暗い絵に惹かれる。今回の展示の中で名前を覚えて帰ったのは、ヨンキントの「ドルトレヒトの月明かり」だった。
月明かりに、呼ばれた。