小さなスーパーで、買った品物をエコバッグに詰め替えている時、左側で同じ作業をしていた老婦人の手元から何かがバサッと落ちた。「あら!」とその人が言うので、もしかしたら私のカバンか腕か何かが当たったせいかと心配になって見ると、その人は落ちたものを拾いながら「元気なほうれん草だこと! きっと美味しいわね」と笑い声で言うのだ。思わずこちらも笑顔になった。
背中側のレジでは、店員さんがいつものように「ポイントカードはありますか?」とお客に聞いていた。男性が何か戸惑っているようだったが、店員さんが「当店のポイントカードと、それからJREのポイントカードも使えます」と答えると、その男性は「そうかぁ、それは助かるなぁ〜」と嬉しそうに言い、去り際には「ありがとう」と言った。
たったそれだけのことなんだけど、店を出てから「なんだかいい日だな〜」と思い、秋空を見上げたくなった。私が何をしたのでもない、知らない誰かから偶然もらった「ちょっといい気分になる言葉」だった。
「いい気分」になる出来事には、探していてもなかなか出会えない。落ち込んでいる時にこそ出会いたいが、たぶん、気づきにくいだろう。ほんわか余裕のあるところに、ふんわり他人の言葉が入ってくるのかもしれない。逆もまた然りで、トゲトゲしていればトゲトゲに敏感になりトゲトゲが増幅される。
言葉は使い方次第なんだよね、当たり前なんだけど。
どうせ言葉を発するなら(書くなら)私は、ほうれん草のおばさんやポイントカードのおじさんのようでありたいなーと、ぼんやり思う秋のはじめのできごとでした。