朝顔とスーツ

昨日はときどき雨がシャラシャラ降った。混み合う朝の駅の構内で、植物の鉢を下げて歩く会社員がいた。四角い青のプラスチックの鉢に、黄緑色の支柱。高さ60センチ近くありそうなそれはきっと、小学校低学年の授業で育てる朝顔だ。

夏休みの間は家に持って帰って観察をしなければならないけれど、子供がひとりで持ち帰るには大きい。だから親が学校まで行って、我が子の鉢を持って帰ることになる。私は自転車の前カゴに入れて帰ったけれど、そうか、電車で小学校に通っていたら、電車で持ち帰ることになるのだなぁ。

まさかそのまま朝顔を持って出社するのではなかろうが、スーツ姿のお父さんは鉢を下げて改札を出た。傘を持っているのかいないのか、お父さんはひとりそのまま歩き出す。みるみるスーツの肩に雨つぶが乗り、濡れても構わないはずの朝顔は、すっぽりとビニールに覆われていた。

それにしても学校でやるあの朝顔の栽培は、それぞれに育ち具合の差が明白だった。ずらっと外に並べられた青い鉢は環境も同じなのに、元気な苗、ひょろりとした苗、すぐにも蕾をつけそうな苗、今にも萎れそうな苗…。育て方はたいして違いないだろうから、種子の個体差なんだろうか。なのに、元気に育っている朝顔を見ると、この鉢の持ち主はいい子なんだろうなーとか、いい家庭なんだろうなーと思わされたものだった。我が子の朝顔がどんなだったかは、覚えていないけど。

sakurai
書かなければ忘れてしまうようなことを書き、次の日には書いたことを忘れています。1960年代生まれ。♀。肩書不定。ただの「私」でありたいんだと青臭いことを言っても、読んだらわかるただの主婦。