肩たたき10円

 歩くために、歩いている人をよく見かける。どこかに行くためではなく、健康のために歩いている人だ。圧倒的にお年寄りが多い。若い人なら走るんだろう。

 最近は大きなショッピングモールの床に「スタート」地点が記されていて、歩いた距離が分かるようになっていたりする。屋内なら交通事故にあうこともないし、空調も効いているから熱中症の心配もなく安全だ。

 階上にある駐車場から、エスカレーターで下りてくるとき、眼下に休憩用のベンチがいくつも見えるのだが、どの椅子にも、疲れた様子の人が座っている。それもやっぱりお年寄りが多い。歩き疲れたのか、ただ暇なのか、連れを待っているのかわからないが、いつ見ても必ずどの椅子にも人が座っている。

 先日、いつものように駐車場から下りて来るとき、ベンチのひとつに座った老婦人が小刻みに身体を動かしているのが気になった。前かがみになり、右膝に右肘をつけて、握ったゲンコツを懸命に振っているのだ。「震えてしまう」のではなく、はっきりと意識的に振っている。しばらく振ってから手のひらを開いて見て、また振り出したところで、ははーんと合点がいった。ゲンコツの中にあるのは万歩計なんだろう。

 5000歩歩くまでは帰ってきちゃいけないとか、言われているのかなんなのか分からないけれど、目標の数値に座ったまま近づけたいんだろう。健康のために歩きに来て、右手を痛めて帰りそうな勢いだった。

 ○○するまで△△してはいけません。あるいは、○○したら△△してもいいです。

 そんな縛りは今のところないけれど、自分で自分にちょっとした「○○してから〜」という条件をつけることはよくある。ピアノの練習をしてからホニャララ、ブログを書いてからホニャララ……

 でも、その最初のやつをやらないから、その次がなかなかできない。そもそも「その次」にもそこまで魅力がなかったりするから、ただの優先順位だ。

 ブログを書いたらアイスを食べていい……なんてご褒美くらいじゃ動けない。10円のために肩たたきできたころが懐かしいよ。

……

 さて、アイスでも食べようかな。


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sakurai
書かなければ忘れてしまうようなことを書き、次の日には書いたことを忘れています。1960年代生まれ。♀。肩書不定。ただの「私」でありたいんだと青臭いことを言っても、読んだらわかるただの主婦。