危ないよ!

8日ぶりに愛犬を散歩に連れ出した。道端の雑草は伸び、他所の家の垣根に絡みついた何かのツルは歩道に暴れ出て、家庭菜園であろう畑で雨に濡れて光るトマトは下の方がだいぶ赤くなり、斜めになっていたネギも、まっすぐに立っていた。

鉄道高架脇のガードレールの上に立って腕を伸ばし、カメラを構える撮り鉄くんが3人いた。仲間で来たのではないのか、充分な距離を置いて無言だったけれど、電車が通り過ぎた後、ガードレールを下りてそれぞれに写真を確認しているポーズがそっくりで微笑ましかった。

陽差しはないが、蒸し暑かった。道路もまだ少し濡れていた。馴染みの四つ角に差し掛かり、犬を抱き上げ、左右を確認。どちらにも車はいない。よーし渡りましょう! といつものように歩き出したところで、

「そこは横断歩道じゃないよ!」と、男の人の声が飛んできた。「危ないよ! わかってんの?!」

ものすごく驚いた。おまわりさん? と思って振り返ったら40代くらいの普通の恰好の男の人の、「アホか、こいつ」と言いたげな顔と目が合った。でもそこはもう道路の真ん中で、相変わらず車は来ない。戻るのも変なので「ありがとうございます」と(聞こえたかどうかわからないけど)会釈してそのまま渡ってしまった。追いかけてくるんじゃないかとドキドキした。

いや全く、他人に大声で注意されることなんて滅多にあることじゃない。

15年近く歩いている道。何度も渡っている場所だ。確かに5メートルくらい先に横断歩道があって、歩行者用の信号機がついている。でも、……と言ったらいけないのは分かっているけれど、みんな、……と言ったらいけないのも分かっているけれど、そのまま向こう側に進みたい人は、横断歩道まで行かずに当たり前のようにそこを渡っている。見通しもいいし、狭い歩道に立ち止まって歩行者用の信号機を押して車を停めてぐるっと戻って来るよりも……と思ってしまうような場所なのだ。

でも、
心のどこかでは気にしていたよね、横断歩道があるんだよなーと。危ないと思うからこそ、犬を抱き上げて急ぎ足で渡ってたんだよね……。

そんなわけで、次回からはひとりでもちゃんと横断歩道で渡ろうと思う。他の人がそのまま渡って行こうとも、「しばらくお待ち下さい」のボタンを押して、しばらく赤信号を灯しちゃおうと思う。

思いがけず「危ないよ!」と言われて本当に驚いたけど、わざわざそう言う人が現れたということは、本当に気をつけなさいよということなんだろう。黒いマスクをした神様だったかもしれない。

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sakurai
書かなければ忘れてしまうようなことを書き、次の日には書いたことを忘れています。1960年代生まれ。♀。肩書不定。ただの「私」でありたいんだと青臭いことを言っても、読んだらわかるただの主婦。