他人の冗句

「だーからお前さんはウンタラカンタラなんだよっ、わっはっはっは、まったくおかしな奴だなぁ!」という、海外ドラマの吹き替え版みたいな大きな声に釣られて見ると、電車のドアのそばにふたりの人が立っていて、窓際の大柄な中年男性が楽しそうにお腹を揺らしている。一緒にいるのは、男性なのか女性なのか、一見しただけではわからないショートヘアの人。やはり楽しそうにしているように見える。女性だろう。

とにかく、窓際男性の声が大きい。
川に差し掛かり、連れの女性が「あ、隅田川!」と普通の声で言うと、

「バーカ、何言ってんだ、千曲川だよ、千曲川! わっははは!」と返す。

いや、どこから千曲川が出てくるんだか。
それからすぐにスカイツリーが見えれば、

「ほら見ろ、あれが上海タワーだよ、すげーよな!」だ。予想を上回るチョイス!

全く面白くもないし、声は大きいし、電車の中だし恥ずかしいからやめて…と私なら思うだろうが、同行の女性はあくまでもニコニコしている。笑いの波長が合うご夫婦なのか、いや、ご夫婦じゃないから笑えているのか。どっちかわからないけど、

「よーし、ロンドンに着いた。降りるぞ降りるぞ!」という男性の声と共に、二人は大きな身体を揺らしながら仲良く降りて行った。

なんだか幸せそうだったし、車内は静かになるし、

めでたしめでたし。

sakurai
書かなければ忘れてしまうようなことを書き、次の日には書いたことを忘れています。1960年代生まれ。♀。肩書不定。ただの「私」でありたいんだと青臭いことを言っても、読んだらわかるただの主婦。